ネガポジに行ってきた

12/16
丸太町ネガポジに行ってきた。客で。今日は新譜『Breath』発売日。購入店舗によっては特典CDRがついてるんだけど、昔よく対バンした大阪のバンド「プラッチック」の曲を弾き語りでカバー音源3種類。ネガポジには2000年頃から出演した。初めてデモテープを持って行ったのがプラッチックのフロントマン川本氏に誘われてのことだった。今年限りで丸太町からネガポジがなくなる。移転ということだが19年もそこにあったものが場所が変わるだけというシンプルな捉え方もできにくく、やはり一つの場所がなくなるという喪失感の方が強い。
丸太町ネガポジでのライブはスケジュールが合わなくて叶わなかったけれど、初めて店を訪ねた時と同じく、川本氏と二人で店のドアをくぐった。出演よりも、むしろ最後にそういう形で行けてよかったと思う。

スクラップ、ロボピッチャー、というよりも僕にとってはハラッパカラッパの加藤さんのブログでネガポジのことはほぼ語り尽くされている。加藤さんがネガポジ以外の場所を中心に活動し始めたころに、僕はネガポジに出はじめた。だから時期は少しズレている。
久しぶりに覗いたネガポジは昔のまんまで、ライブは四組あったがほぼ同世代の出演者ばかり。あまり若い人間がステージにも客席にもいないが、閉店を惜しむ顔ぶれなら必然的にそうなるかと思い特に気にもせず変わらないドリンクとフードメニューを頼んだ。あんなに美味しいと思って食べたネガポジ丼やツバメの巣は、不思議なことに味を感じるというよりも、昔の思い出を連れてくる道具のひとつみたいだった。
こんなにステージ狭かったかなとも思った。初めて来た時に比べると店内のレイアウトも少し変わって、だいぶ小綺麗になったはずだが、流れる空気に全く変化はなかった。
四組のライブが終わった後、僕と川本氏の前に店長の山崎さんが缶ビールを持って立っていた。「どこで呑む?」空いていたテーブルに座って、なんだかんだ喋った。夜も深くなって、そろそろ帰ろうかという時に山崎さんがステージにスクリーンを降ろしてかつてのライブ映像を流し始めた。ハラッパカラッパ、地獄の季節、ポンチッチ、まねはね、月下美人、双葉双一、プラッチック、騒音寺、融点、アンドヤング、そして自分のライブ映像も。なんかみんな熱かった。現役もたくさんいる。みんな、歳取ったなぁ。ドライに観ていたが、山崎さんはひょっとしたらセンチメンタルになってるのか。人には言わないだろうけど。
映像が終わったあと、まだ呑んだ。瓶を空にしても空にしても山崎さんが若いスタッフにビールを頼んだ。山崎さんはライブハウスの頑固親父として有名だった。いつのまにか僕は当時の頑固親父と同じ年齢になってしまった。時間が経ったということは当然、新しい世界に出て得る新しい種類の経験を沢山する。美味しいものも沢山食べるし、どうでもいいような食事をとることもめっきり減る。
ひとつひとつ正面から受け止めて傷ついたり喜んだりしたことも、ある程度は前もって予測がつくようになるし、そもそも些細なことであまり心が揺れたりもしなくなる。鈍感になるのではない。場数を踏んでどうとでも対応できるようになることだ。ネガポジにはそれらと正反対の、愚鈍な美学みたいなものがあったし、まだある。
加藤さんのブログにあった通り、山崎さんは若返っていた。今の年齢を尋ねてあれ?と思うくらい。
以前、ネガポジ移転を知ったときに、そのことをブログに書いた。山崎さんはそれを読んでくれていたらしく、ブログに書いたことについてありがとうといわれた。昔の頑固親父ならそんなこと素直に言わなかったんじゃないかな。
時間が経って、誰もが嬉しい、悲しい、を、素直に口にできるようになる。寂しいが言えるのはもう少し時間がかかるかもしれない。
ライブハウスに長くいると、その店の匂いが服に染み付く。タバコや揚げ物の油の匂いや、それこそ地層のように壁に染み渡った場所の匂い。ネガポジとアバンギルドは当然匂いが違う。ネガポジは移転するからなくならないが、いまの店舗のネガポジの匂いは、もうなくなってしまうのだ。